この冷たく優しい世界で
「私たちって、なんで繋がれないんだろう」
事後の気怠さに微睡んでいると、彼女が脈絡もなくそんな素朴な疑問を口にしたので、私は思わず笑ってしまった。
「急にどうしたの。当たり前じゃん、そんなの」
「でも、なんだか悲しくなっちゃって。こうやってハグすることはできても、異性のカップルと違ってひとつになれないんだよ、一生。どんなに好きでも」
「仕方ないじゃない。子孫を残せないのに、そんな機能があったって意味ないでしょ。種の保存という視点で見たら、私たちみたいな存在ってバグなんだよ」
「バグ……」
他愛もない話に付き合うつもりで軽くあしらったら、枕の上の彼女の顔がクシャッとひしゃげてぎょっとした。
「好きで、おかしいわけじゃない」
そう呟いて、努力が実らなかった子どものような顔で、次から次へと涙を流している。
私は慌てて彼女の涙を拭ってやり、自分の軽率さを反省した。私が思うよりもずっと、彼女にとっては真剣な問題だったらしい。
しばらく頭を撫でていたら彼女は次第に落ち着いてきたが、涙が止まってからも、「神様はいじわるだね」とぼやいた。
「命を繋いでいくことが生きている者の義務なら、性別なんて作らずに誰とでも子どもを作れるようにすれば良かったのに」
「まあ、私もそう思うけどさ。そうしたら増えすぎちゃうから、あえて調整してるんじゃない?それに、もしこの世が神様の机上のゲームなんだとしたら、何もかもが予定通りに進んでも面白くないでしょ。私たちみたいなイレギュラーを残しておくことで、ストーリーに味をつけてるんだよ、きっと」
「そんなの……」
彼女は反論しようとしたが、やめた。代わりに寝返りをして、私に生白い背中を向ける。
私は寒そうな彼女の身体を抱きしめて、幼子をあやすように優しく撫でた。
「でもさ、今はそういう仕様だけど、これからはどうなるか分からないよ。もっと科学が発展して、同性同士でも当たり前に子どもを作れる社会になるかもしれないし、あるいは人間の体が、多様な愛にも対応できるような肉体に進化していくかもしれない。どんな動物だって、ニーズに従って発展してきたんだから、そうなってもおかしくないと思うな」
そんなことを話していると、腕の中の華奢な背中が笑った気配がした。
「なんだか、話が壮大になってきたね。それが実現されるときって、きっと私たち、もう死んでるよ」
「でも、ありえない話じゃないでしょ?ポジティブにいこうよ、ね。」
彼女はまた寝返って、今度は私の体を抱きしめた。
きっと今、私の脳ではオキシトシンが出ているな、なんてネットで聞き齧った幸せホルモンのことを考えながら、私も彼女を抱きしめる。
悪戯心で呼吸が苦しくなるくらいに力を入れたら、彼女も負けじと笑いながら抱き返してきた。
「私、今、幸せだよ。幸せだから、もっと欲しくなっちゃった。性別にかかわらず、愛し合えるっていうことだけでも奇跡なのに、ないものねだりだったね」
私は答えるかわりに、彼女の額にキスをした。
例え世界が変わらなくても、私はこの子を、いつか旅立つときが来るまで幸せにしたいと思った。