反・非性愛型サイボーグ
想い人ができたからといって、性欲に直結するかどうかは、人によって違うものだ。
例えば、私には現在付き合っている女性が居るが、私は今までに一度も、彼女に対して性的な関心を抱いたことが無かった。
それは決して彼女に魅力が無いという理由ではなく、ただ単に私がそういうタイプの人間だったのだ。
彼女に限らず、今まで男女問わず色んな人物に恋をしてきたが、そこにはいつも性欲を伴っていなかった。
恋焦がれ、愛おしいと思う気持ちに嘘は無いのに、生理的な欲求にかられて自己処理をするとき、いつも妄想の中に恋人は居ないのだ。
付き合っている恋人が悪戯に誘惑してきたとしても、私は『断っては申し訳ない』と思いながら事務的に応じるだけで、本質的な悦楽を感じることはできなかった。
きっと私の〝愛〟は、恋というより憧憬とか、親愛とか、羨望に近いものなのだと思う。
『人として好き』と言えば、ニュアンスが伝わりやすいだろうか。
さて、ここに彼女が居る。
顔や身体のあちこちにメスを入れて、余分は排除し、不足を補った完全体がここに在る。
相当な期間のダウンタイムを経て、今日ようやく全ての包帯の取れた彼女が、誇らしげに私の上に跨っている。
1㎜の狂いもなく折り込まれた二重瞼の下で、完璧なカールを決めた長い睫毛が主張していた。
以前よりツンと尖った鼻先が私の鎖骨の上に食い込み、その近くで、肉厚になった唇が触れる気配がした。
「ねえ。私、色っぽくなったでしょう」
彼女の問いかけに、私は曖昧な相槌を返した。
薄紅色のグラデーションネイルが、私の乳房に痕を残すように沈んでいる。
その指先は酷く冷たく、今までの彼女の焦燥を現しているかのようだった。
きっと幾度めかの同衾の際、私がどこか演技じみていることを、彼女は察してしまったのだろう。
「ごめんね。ちゃんと、愛しているから」
そう言うと、彼女は皮肉げに嗤って私を睨め付けた。
「もう、遅いよ」
熟れた舌が、私の中に侵入する。
今度は正しく、果てることができるだろうか。