春風とともに

中学生の頃、学校の裏庭で友達と桜の花びらを捕まえようとしたのを覚えている。
ひらりひらりと無秩序に舞う桃色に踊らされて、私も彼女も夢中で空に手を伸ばしたけれど、結局一枚も取れなかったな。

「あーあ、やっぱり難しいね」

私が声をかけると、彼女は困ったような笑顔を浮かべた。
その瞬間、春風が優しく渦巻いて、彼女はあっという間に花吹雪に飲まれてしまった。

「すごい。綺麗……!」

幻想的な光景に見惚れていると、彼女は私の手をそっと引いて、桜の渦の中へ抱き込んだ。

「ねえ、私の願いを叶えてくれる?」

そう囁いた彼女の左手には、いつの間にか桜の花びらが捕らわれていた。

あれから18年。あの日を境に関係性の変わった私達は、今も春風とともに、新しい年を迎えている。