愛玩愛好者
彼女の仕事は丁寧だった。
胴体周りの毛皮は美しさを損なうことなく取り除かれ、まるで絵画のように壁面に飾られている。
小さな頭の割に大きな両の目の玉は、後ろに繋がる視神経を極力残した状態で薬漬けにされていたし、靴下を履いているような模様だった足の先は、色の変わり目に合わせて慎重に切り取られていた。
臓物の一つ一つが等間隔に並べられている棚の合間を擦り抜けて、私はわざと音を立てて彼女の隣に座り込んだ。
彼女は楽しそうに画面を見つめている。ディスプレイから、猫の甘える声が聞こえた。優しい飼い主に可愛がられる様子を映した、よくある癒し系の動画である。
「私は心底、あんたが理解できないわ」
そうごちると、彼女は初めて振り返った。
そしていかにも面白そうに、「なんで。猫ちゃん、可愛いよ」だなんて言ってくる。
本当は分かっているのだ。分かっていて、知らないふりをする。
彼女は異常ではあるが、人の心が分からない人間ではないことは、長い付き合いの中で知っていた。
『にゃあん』
微笑む彼女の正面から、再び間延びした声が聞こえた。
味わうようにじっくりと虐殺された者達が飾られるこの部屋には、おおよそ似つかわしくない鳴き声だった。
「私、可愛いものが大好き。動いているときも止まっているときも、外見も中身も全部好き。世の中に可愛いものは沢山あるけど、その中で猫ちゃんは特に好き。好きだから、色んなところを見たいって思っちゃうの」
「じゃあ、あんたにいつも大好きって言われている私も、いつかこの部屋のコレクションになっちゃうのかしら」
そう言うと、彼女は首を傾けてにっこり笑った。
「残念。君はまだ、その領域じゃないんだよ」
よく分からないことを言って、彼女は私に馬乗りになる。獣を殺した後はいつもこうだった。
フラスコに保管していた血液を私の体中にぶち撒けて、ついさっき命を捌いたナイフで首筋から乳頭にかけて傷付けないように愛撫してゆく。
「大丈夫。いつか私のものにしてあげるからね」
吐息交じりに、彼女のソプラノが鼓膜を揺らす。
破滅への期待に腰が痺れて、私は思わず声を漏らした。
私も大概、狂気に濡れているのだろう。